一、戦わずして人の兵を屈するは善の善なるものなり

2011年08月14日 19:09

孫子曰わく、およそ用兵の法、国を全うするを上となし、国を破るはこれに次ぐ。
軍を全うするを上となし、軍を破るはこれに次ぐ。
旅を全うするを上となし、旅を破るはこれに次ぐ。
卒を全うするを上となし、卒を破るはこれに次ぐ。
伍を全うするを上となし、伍を破るはこれに次ぐ。
この故に百戦百勝は善の善なる者にあらず。
戦わずして人の兵を屈するは善の善なるものなり。

故に上兵は謀を伐つ。
その次は交を伐つ。
その次は兵を伐つ。
その下は城を攻む。
攻城の法は已むを得ざるがためなり。

櫓・フンオンを修め、器械を具うること、三月にして後に成る。
キョイン又た三月にして後に已む。
将 其の忿りに勝えずしてこれに蟻附すれば、士卒の三分の一を殺して而も城の抜けざるは、此れ攻の災いなり。
故に善く兵を用うる者は、人の兵を屈するに、戦うにあらず。
人の城を抜くに攻むるにあらず。
人の国を毀るに、久しきにあらず。
必ず全きをもて天下に争う。
故に兵頓れずして利全かるべし。
これ謀攻の法なり。

兵法において敵国を傷つけず降伏させるのが上策であり、攻撃を仕掛けて破るのは先に劣る。
敵軍を無傷に降伏させるのが上策であり、攻撃をするのは先に劣る。
旅団、小隊、分隊、全てにおいて言えよう。
だから、百回戦い百回の勝利を収めるのは、戦っている時点で上策ではないのだ。
戦わずに降伏させてしまう方法こそが上策なのだ。

一番優れた策は、相手の策略を未然に防ぐことである。
その次は、敵を孤立化するように外交を切り崩し、
その次は、軍を交えて戦うことである。
最低の策は、攻城戦である。
攻城戦は、先の方法を使った後にやむを得ない場合に行うのだ。

攻城兵器の準備に三か月。土塁などの工事にも三か月は必要だ。
我慢ができずに攻めかかるようなことがあれば、蟻が取りついてこぼれるように、
兵士の三分の一に犠牲を出して城も落ちない、攻城戦の災いである。
だから、優れた兵法家は、敵兵を不用意に殺さずに降伏させ、
城攻めせずとも陥落させ、国をも無傷で奪うのだ。
「全う」して天下を手に入れる。
こうして、兵力を損ねずに得るべき成果は全うするのである。
これこそ、謀略による攻め方である。

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